⑬ 行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920)
政府の生成AIガイドライン「DS-920」を徹底解説
〜行政の進化と革新を安全に進めるための実践ルール〜
2025年5月27日、デジタル庁が「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920)」を初版として公開しました。これは、政府が生成AIを本格的に業務に取り入れるための包括的な指針です。
そして2026年6月12日、公開からわずか1年ほどで**第2.0版への改定**が行われました。背景にあるのは、生成AI関連技術の急速な進展、利活用ユースケースの拡大、そして国内外の制度・政策動向です。対象となる生成AIの範囲が音声・画像にまで広がったほか、高リスク判定の考え方も見直されるなど、実務に直結する変更が加わっています。 生成AIの便利さを最大限に活かしつつ、リスクをしっかり管理する——そんな「攻めと守りのバランス」を具体的に示した資料になっている点は初版から変わりません。国の職員だけでなく、生成AIを業務で活用しようと考えている民間企業の方にも参考になる内容です。 今回は第2.0版の内容をベースに、ガイドラインのポイントと主な改定点を、わかりやすく整理してお伝えします。
ガイドブックの基本情報
タイトル:行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920)発行元:デジタル庁(デジタル社会推進会議幹事会決定)発行日:2025 年(令和7年)5 月27日(初版)/2026年(令和8年)6月12日(第2.0版)バージョン:第2.0版対象者:国の政府職員総ページ数:64ページ(別紙1〜4を含む)施行日:2026年(令和8年)9月1日 ※CAIOに関する対応事項(6.2)は2026年6月30日までに整備、対象生成AI拡大分のガバナンス適用は2026年7月1日から
ガイドラインが生まれた背景と目的
近年、G7広島プロセスをはじめ、国際的にAIガバナンスの議論が活発化しています。日本でも「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)や、これに基づく「人工知能基本計画」(令和7年12月閣議決定)、「AI指針」(令和7年12月)が相次いで策定され、AI政策の土台が急速に整ってきました。日本政府も「生成AIを積極的に活用したい。でもリスクはしっかり管理したい」というニーズに応えるため、このガイドラインを策定・改定しています。
対象となる生成AIの範囲は、第2.0版で大きく広がりました。初版では「テキストを入力し、テキストを出力する」LLMベースのシステムに限定されていましたが、第2.0版では入力がテキストまたは音声、出力がテキスト・画像・音声のいずれかであれば対象に含まれます。つまり、音声入力の議事録作成システムや、画像を生成する行政利用のシステムなども、正式にこのガイドラインの対象になったということです。 一方、AIエージェントのような「より高度なタスクを自律的にこなすAI」については、まだ調達・契約の具体的なルールまでは定めず、ガバナンス体制(CAIOの管理対象やリスクケース対応など)の枠内で扱う、という一歩踏み込んだ位置づけになっています。なお、特定秘密や安全保障関連の機微情報を扱うシステムが対象外である点は変わりません。 適用時期も第2.0版で明確になりました。ガイドライン全体の施行日は2026年(令和8年)9月1日です。ただし、CAIO(AI統括責任者)に関する対応事項は2026年6月30日までに整備することとされ、対象生成AIが音声・画像に広がったことに伴うガバナンス適用は2026年7月1日からという、段階的なスケジュールが附則で示されています。
政府が掲げる生成AI利活用の基本方針
政府は「リスクの低い業務から積極的に導入し、高リスクのものはしっかりチェックする」という現実的な方針を取っています。
特に重要なのが「高リスク判定シート」です。第2.0版では、この判定軸が4つから3つに整理されました:
- A. 適用業務:国民の基本的権利や安全、生命・身体・財産に大きな影響を及ぼす可能性のある業務かどうか
- B. 利用範囲:不特定外部者(一般国民等)、特定外部者(業務上の知見に基づき出力の適切さを判断できる者)、複数府省庁横断、単一府省庁のいずれで使うか
- C. 職員等による出力結果の判断:AIの出力結果をそのまま使うのか、職員等が確認・判断するのか
政府全体のガバナンス体制
このガイドラインの大きな特徴は、明確な責任体制を構築している点です。
- 各府省庁:AI統括責任者(CAIO)を新設。デジタル統括責任者などが兼務し、生成AIのライフサイクル全体を管理します。
- 政府全体:デジタル庁が事務局を務める先進的AI利活用アドバイザリーボードを設置。AIセーフティ・インスティテュート(AISI)も参画します。
- 相談窓口:デジタル庁にAI相談窓口を設置し、各省庁が技術的な相談をしやすい環境を整備。
CAIOは四半期に一度程度、ボードに進捗を報告します。これにより、横串を刺した情報共有とリスク管理が可能になります。
生成AIの便益とリスクを正しく理解する
便益の例:
- 文書作成・要約・翻訳の大幅効率化
- 新しい政策アイデアのブレインストーミング支援
- 問い合わせ対応の質とスピード向上
- 政策文書の論理的整合性のチェック
- 人が対応しづらい時間帯・場所でのサービス提供拡大(第2.0版で追加された視点)
調達・利活用の具体的なルール
ここがこのガイドラインの最も実務的な部分です。
- 目的・目標の明確化 - リスク分析
- 取り扱う情報の格付けに応じたアクセス制御(権限管理)の実施(第2.0版で追加)
- 入出力ログの取得・管理体制の整備(第2.0版で追加)
- 高リスクの場合はアドバイザリーボードへの報告準備
- リリース前のユーザビリティ確保(「DS-670.1 ユーザビリティガイドライン」を参照、第2.0版で追加)

調達段階
調達チェックシート(別紙3)を活用し、仕様書に21項目の要件を盛り込みます。 主な基本項目には、AIガバナンス体制の構築、有害情報出力制御、偽・誤情報防止、説明可能性の確保などが含まれています。
契約チェックシート(別紙4)では、入力データの学習有無や、インシデント発生時の事業者対応義務なども明確に契約に記載します。
リリース前・リリース後
徹底したテスト検証職員向け利活用ルールの周知ログ取得体制の整備継続的なモニタリング出力結果の適切さを判断せずタスクを実行するAIエージェント等を職員が作成できてしまう場合の、作成制限や利用開始前の報告ルール整備(第2.0版で追加)
リスクケースの例も第2.0版で追加され、差別的出力やハルシネーションによる不利益、著作権侵害に加えて、**「音声回答が著名人の声に似てしまい停止の申出を受けた」「不自然な生成画像に気づかず公開文書へ掲載し批判を受けた」「音声入力の誤認識で記録の正確性が損なわれた」**といった、音声・画像特有の事例も明記されました。発生した場合は、CAIOを中心に迅速に対応し、知見を政府全体で共有する体制は初版から変わりません。
調達段階
調達チェックシート(別紙3)を活用し、仕様書に要件を盛り込みます。第2.0版では要求事項が29項目から33項目に拡充され、音声入力・画像出力など対象AIの広がりに合わせて、各要件がどの入出力形式に適用されるかも明示されるようになりました。 主な基本項目には、AIガバナンス体制の構築、有害情報出力制御、偽・誤情報防止、説明可能性の確保などが含まれ、個人情報・プライバシー・知的財産の保護や、セキュリティ確保に関する要件がより細分化されています。 また、新たにプロンプトインジェクション攻撃やDoS攻撃(サービス拒否攻撃)への対策例を整理した一覧表が本文に追加され、AI開発者・提供者それぞれが講じるべき技術的対策の全体像がひと目でわかるようになりました。 契約チェックシート(別紙4)では、入力データの学習有無や、インシデント発生時の事業者対応義務なども明確に契約に記載します。 なお、「利活用ルールひな形」(別紙2)もVer1.0からVer2.0に改定され、プロンプト入力時・AI生成物利用時それぞれの知的財産権対策の具体例が表形式で追加されました。AI生成物をそのまま公開・配布する前に、著作物や商標、肖像・声との類似性を確認するプロセスがより具体的に示されています。
今後の展開
技術の進化は速いため、ガイドラインは随時見直される方針です。実際、初版で示されていた「画像・動画生成AIへの来歴証明の検討」や「府省庁間データ連携・共通システムのあり方」といった論点は、今回の第2.0版改定を通じて、対象生成AIの拡大や調達チェックシートの拡充という形で一部が具体的なルールに反映されています。
第2.0版の本文では今後の進め方についての記載がよりシンプルになり、「日々技術進歩する生成AIの調達・利活用においては、想定されていなかったリスクが今後も顕在化しうる」という前提のもと、随時見直していく方針が改めて示されています。今回のような比較的短いスパン(公開から約1年)での改定は、今後も続いていく可能性が高そうです。
まとめと所感
第2.0版の本文では今後の進め方についての記載がよりシンプルになり、「日々技術進歩する生成AIの調達・利活用においては、想定されていなかったリスクが今後も顕在化しうる」という前提のもと、随時見直していく方針が改めて示されています。今回のような比較的短いスパン(公開から約1年)での改定は、今後も続いていく可能性が高そうです。DS-920は、ただのルール集ではなく「生成AIを安全に、かつ大胆に行政に活かすための実践マニュアル」と言えます。第2.0版への改定は公開から約1年というスピード感で行われており、生成AIの技術動向やユースケースの広がりに合わせて、ガイドライン自体も継続的にアップデートされていくものだということがよくわかります。
特に印象的だったのは、リスクを「ゼロにしよう」とするのではなく「管理しながら最大限活用する」という現実的な姿勢が、改定後も一貫している点です。CAIOという責任者の明確化や、チェックシートの具体性も非常に役立つはずですし、対象範囲が音声・画像にも広がったことで、より幅広い生成AI活用の場面をカバーできるようになりました。
民間企業の方も、自社のAIガバナンスを考える際の参考にすると良いでしょう。「どこまでリスクを取るか」「誰が責任を持つか」を整理するきっかけになりますし、今回の改定内容は、政府がAIリスクをどのような観点で見直しているかを知る良い手がかりにもなります。参考
- 新版PDF本体:https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/decb64eb-f26e-41cb-8d37-f3dd173108b8/59054b35/20260612_resources_standard_guidelines_guideline_01.pdf
- デジタル庁公式発表ページ:https://www.digital.go.jp/news/decb64eb-f26e-41cb-8d37-f3dd173108b8
- 概要版PDF:https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/decb64eb-f26e-41cb-8d37-f3dd173108b8/f8e1c3b8/20260612_resources_standard_guidelines_guideline_03.pdf
- 初版PDF(比較対象):https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/80419aea/20250527_resources_standard_guidelines_guideline_01.pdf
他のガイドラインは以下よりご覧ください
AIガイドライン 18本 構造化インデックス
【一覧】日本政府 AIガイドライン 18本【INDEX】


